1.はじめに
2019年6月14日の施行日を控え、プレイガイド各社ではチケット不正転売禁止法に対応するべく、さまざまな準備が進められています。チケット不正転売禁止法の対象チケットにするかどうかは主催者が決定することになるので、事前にそのメリット・デメリットを十分に理解した上で、必要な指示・要望等をプレイガイド等に出していく必要があります。既に販売されたチケットについて、高額転売が目立つからといって、後から対応することは困難ですので、事前に十分に法律を理解した上で、適切な指示を行っていく必要があります。本稿では、法律の概要を解説しつつ、この法律によりできること、しなければならないことを解説していきます。
2.どのようなチケットが規制対象となるのか
不正転売を行うと処罰の対象となるのは全てのチケットではなく「特定興行入場券」に該当する一部のチケットに限られます。「特定興行入場券」に該当させるためには、入場資格者の特定や券面記載事項など、さまざまな条件をクリアする必要があります。
本法では、「特定興行入場券」の不正転売行為が禁止されています。特定興行入場券に該当するためには、以下のチェックリストの全てを満たす必要があります(8、9についてはいずれか)。
以上のチェックリストからも、特定興行入場券に該当するチケットは一部の限られたチケットであることがわかります。本法の成立前から、営利目的の転売がプレイガイドやファンクラブの規約で禁止されていることがほとんどでしたし、昨今は、有償であるか無償であるかを問わず、主催者が認める方法以外での譲渡を全て禁止するケースも珍しくありません。特定興行入場券は、こういった譲渡が制限されたチケットのうちの一部のチケットに過ぎないということを理解する必要があります(下表参照)。
主催者としては、①特定興行入場券とするのか、②特定興行入場券には該当させず、一切の譲渡を禁止するのか、③特定興行入場券に該当させず、券面価格以上の譲渡を禁止するのか、④転売については自由とするのかを、事前に選択してチケットを販売する必要があります。
3.どのような行為が規制対象となるのか
特定興行入場券の「不正転売」と、「不正転売目的の譲り受け」が対象になります。
「不正転売」とは、条文においては「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの」と定義されています。該当性を判断する要素は、以下のリストのとおりです。これに全て該当する行為のみが「不正転売」となります。
4.主催者に課せられること
①二次流通を整備する努力義務、②会場での本人確認を実施する努力義務、③興行入場券について、正確かつ適切な情報を提供し、購入者等からの相談に応じる努力義務などが課されています。
この法律の目的は、一次的には、「特定興行入場券の不正転売の禁止」を目的としていますが、終局的には、「興行入場券の適正な流通の確保」そして、「興行の振興及び心豊かな国民生活の実現に資すること」を目的としています。したがって、単なる刑罰以外にも、公演主催者等に対してさまざまな努力義務を課しています。
二次流通については、「チケトレ」などの公式リセールサービスが広く利用されるようになってきましたが、普及をさらに拡大する必要性があります。あくまで努力義務ではありますが、リセールサービスを用意せずに、一切の譲渡を禁止することは、消費者契約法の観点からも問題があるとされる余地がありますので、譲渡を厳しく制限する場合は、併せてリセールサービスを利用することが強く推奨されます。
会場での本人確認についても、あくまで努力義務ですので、本人確認を行わないからといって何らかの罰則があったり、特定興行入場券の該当性に疑義が生じると言うことはありません。しかし、既に説明したとおり、特定興行入場券に該当するチケットは、譲渡について何らかの制限がなされたチケットの一部に過ぎませんので、会場での本人確認を行わなければ、高額転売を防ぐことはできません。会場での本人確認についても、可能な限り行うことが推奨されます。
最後に、情報提供義務ですが、これについては、まず主催者ともなるプロダクションの皆さんが正確にこの法律でできること、しなければならないことを理解することが重要です。チケットに売り方が多様化している昨今、購入者からの問い合わせは多岐にわたりますので、どのような方針でチケットを販売するのか、事前に正確な意向をプレイガイド等に伝えておかなければ、適切な対応をすることができず、無用なトラブルを招くことになりかねません。
5.これからの転売対策
現在、音制連、音事協、ACPC、コンピュータ・チケッティング協議会やその他のチケッティング事業者を中心として、適正なチケットの流通を図る任意団体の設立準備が進められています。当該団体においては、ユーザーに対してチケッティングに関する適切な情報提供を行うほか、チケット不正転売禁止法に基づく転売対策が適切に実施できるよう、プロダクションやプロモーターに対しても運用上の指針を作成・提供していくことを検討しています。その他、チケット不正転売禁止法の実効性を高めるため、各省庁や警察との情報共有も継続して行っていく予定です。
先に述べたとおり、2019年6月14日にチケット不正転売禁止法が施行されますが、この法律をどのように活用していくのか、そして、この法律を踏まえた上で、法律の対象にはならないチケットの転売対策をどのように考えていくかなど、プロダクションが総合的なチケッティング戦略をどのように構築していくのかが問われることになるでしょう。
TEXT:東條 岳弁護士(Field-R法律事務所)
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